聖金曜日ミサ説教
2009年4月10日
於:番町教会
昨日も申しましたが,今回の聖週間は聖パウロのコリントの第二の手紙を使いながら話を進めています。
パウロがエフェソに滞在しているときに,コリントの教会に問題が多いということを聞き心を痛めています。そして自分がコリントの教会に行こうと決めます。でも周囲は今あなたが行くと騒動が起こるかもしれないので行かない方が良いと勧めます。それで結局彼は手紙を書いて,コリントの信者に戒めと励ましを与えるということをしています。昨日も申しましたが,最低5通は書いただろうというのが通常の説になっています。現在は2通残っていますが,その2通も,たくさん書かれた手紙を後から一つにしたのではないかというのが定説になっています。これを読んでいきますと,コリントの教会に何があったかを私たちは理解することができます。
第二コリントの3章の1節から3節までは非常にわかりにくい箇所です。パウロは自分を激しく非難し,自分を追い出してしまう信者たちにこういう風に書くのです。「あなたたちこそ私の誉れです。」なかなかわかりにくい文章です。パウロが来るのを断っている信者たち,パウロが行くとどういう権利でここの教会に来たかとなじる人たち,なぜ教会に干渉するのかと反対する人たち。弟子たちを送っても彼らに聞かない人たちを「私の誉れです」というのです。それぞれが,私はケファの弟子であるとか,ペトロの弟子であるとか,アポロの弟子であるとか,私はキリストの直弟子だとか主張して譲りません。教会はごたごたしています。この人たちにコリントの第二の手紙は「私はあなたがたを誇りとしている」と言っています。非常に不思議です,なぜでしょう。少しゆっくり読んでみましょう。自分を攻撃している人たちにこういう風にも書きます。「あなた方は,キリストが私を用いてお書きになった手紙として,公にされているのです。」あなた方は,神様が私に送ってくださった手紙・書簡だというのです。私に教えるために書いた手紙があなた方だということを言っています。すなわちコリントの教会というのは,神様が私に伝えてくれているメッセージであり,だからありがたいというのす。だから最悪の状態にあるコリントの教会こそ,神様が私に与えてくれているメッセージなのだと解釈したのです。そして,その最悪の状況に見えるコリントの教会で,十字架に架けられ,苦しみ,孤独の中にいるキリストが見えるという結論に達しています。最善を尽くして人々のために命を捧げたキリストがそのごたごたの真ん中にいる。人々から非難され,孤独のままに残って十字架にいる。ちょうど問題が多い難しい教会の真ん中に,イエスというお方が十字架につけられて黙って苦しんでいる。「私は皆さんの教会を見たときに,黙って苦しんでいるイエスという方を見ることができる」というのです。これを見せてくれるから皆さんを誇りとします,という文章になったのです。
さらに,コリントの教会を自分の誇りとしている理由は「私はあなた方を設けた」と4章に言っていることです。今は分裂して,なかでもめ事が多いけど「私こそコリント教会の創立者だということです。だから私はあなた方の教会から決して離れません。イエスというお方がその真ん中にいる限り,私はこの教会を命をかけてでも守っていく。」という決意を表しています。外から来て格好良い態度を見せて,それが受け入れられなければ悪態をついて去っていく。こういう牧者とは違うパウロの姿が見えています。だから「私の子どもたち,キリストがあなた方の内に形作られるまで,私はもう一度あなた方を思い苦しんでいます。」と述べるのです。彼の気持ちがよく出ています。パウロ非常に難しい問題を抱えてバラバラになっているコリントの教会に,キリストの十字架を背負って介入し,この苦しみを通しながら新しいコリントの教会が生まれることを期待しているのです。
パウロの見方は深いのです。自分の産んだ息子が自分に反抗的であり文句ばかりを言っている子どもたちに対して,父親の愛情をもって,この子どもたちと接してみようというパウロの心を見る事が出来ます。この子がきちんと成長できるには,今問題を抱えていることが必要だったのです。これを通してもっとすばらしいキリストの教会が生まれるだろうと信じているパウロの姿が見えます。
順調で何の波風もなく,何の問題もなく,あるいは問題があっても問題を避けて通る教会の姿ではありません。問題に直面した時,その中にキリストの姿を見て,そこから新しい教会のあるべき姿を求めようとする。こういうパウロの心持ちをコリントの第二の書簡は見せてくれています。よろしければ一度ゆっくりとお読みになってください。教会の非難の前に立たされ,苦しまなければならない牧者の姿をパウロが見せて下さっています。それは私たち牧者が学ばなければならない姿だということを分からせてくれています。
※司教様チェック済み