主の降誕夜半ミサ説教

2006年12月24日
  於:桜町教会

 日本には,自殺者が年間3万人を超えていると言われております。不名誉なことに日本の自殺者は世界一を誇っております。特に目立ちますのは中高年の自殺でして,ついで最近は未成年者の自殺が目立っております。小学生,中学生,それはいじめによるのでしょう。中高年の自殺の場合にはいろいろな理由が挙げられております。通り一遍な理由としては,政治が貧困であるとか,経済が行き詰まっているとか,こんな話がされます。子どもの自殺に関しては,学校教育が行き詰まっているからだと話されています。経済が行き詰まっていることで,私たち日本の社会の中に格差社会が生み出されていて,それが原因で自殺があると分析を行っている人がいます。同じように,核家族化が進行する中で,行き場を失った老人が最後に行き着くところが自殺である,これらは通り一遍に説明されています。
 これら多くの原因を探って,全部を含めて考えますと,日本という国が歩んだ60年間のつけが今来ているのではないかと思われます。戦争が終わって,日本はなりふり構わず経済優先の社会を実現してきました。突っ走ったというのが,戦後60年間の日本にあてはまる表現です。その中で生きている私たちも,知らず知らずのうちに,拝金主義の影響を受けて即物的になっているし,物質的なものの見方しかできない自分たちになっています。何でもお金に換算してしまうという習性が,身についてしまったのです。少し厳しい見方でしょうか。例えば,現在団塊の世代という人が大量定年退職すると聞くと,すぐに,どういう風に年金をあてにした対策,起業が考えられるかという発想しか生まれて参りません。老人はお金を持っているから,老人からどういう風にお金を取るかということを議論している。老年をどのように豊かに生きるのかという問題でも,その豊かさをお金に換算してしまう。お金があれば幸せになるという錯覚です。少子化についても同じようなことが言えるかと思われます。
 私の周りでも,この一年間だけでも数人の人が自分の命を絶っております。慄然とさせられる現実に,幾度か立たされました。何が原因でその人をそこまで追いつめていくのか,何度も何度も自分に問いかけております。とても悲しいことです。宗教に生きる宗教人としまして,何とかしないといけないなと切実に思います。ただ教会があって,お祈りがあればいいというのではない,何かが必要だということを痛切に感じます。

 ところが,無宗教を標榜している日本の社会というのは,残念なことに宗教を大事にしておりません。その結果,日本砂漠という皮肉な現象を生み出しているということに,私たちはまだ気づいておりません。宗教というのは人の心に潤いを与え,新しい力を生み出す非常に大切なものです。私たち日本の社会は,たぶん,これを失ったかもしれません。これはまた,今の社会の要求に応えておらず怠慢であると,刃を私たち宗教人に突きつけているのかもかもしれません。どこか時代の要求に応えないで,何かむなしい,白々しい信念ばかりを人々に突きつけているのかもしれません。現代人の心の中に深く浸透する宗教のメッセージというのが,キリスト教も含めて,既成宗教には無いのかもしれません。私たちは深く反省してみないといけないと思います。ましてや,お金集めの宗教はどうしても頂けません。私は,常々お金を集める団体というのは,いかがわしいセクトが多いと感じております。本当は命の大切さを強調する宗教が,人権に反したり,命を粗末に扱ったりするというのでは宗教に値しません。

 ここでクリスマスのメッセージです。現代,世相が荒んでいるといわれているからこそ,その時代に私たちに与えられているクリスマスのメッセージがあります。幼子イエスは馬小屋に貧しく横たわり,自分の手を差し出しております。なんと静かで安らいだ光景でしょう。その中で私たちに伝えてくれるメッセージは次のようなものです。
 幸せになるためには多くの物は不要であること。物を持てばいいというものではない,物はいらない。
 2番目,単純素朴さの中に幸せがあること。自分の生活を単純化すること,複雑な物を全部単純に切り替えていくこと,こういう努力が必要です。
 3番目,幸せになるために,あくせくしてはいけないこと。事業のこと,仕事のこと,家庭のことをあくせくあくせく考える必要がない。今,幼子のように自分をすべて投げ出してしまえばいい。宗教の世界というのは,自分を神の手の中に投げ出す,こういうことを表しております。あくせくするときがあったら,静かに少し,あなたの生活をストップして,瞑想してみてはいかがでしょうか。  それから第4番目です。そして最後です。幸せになるためには,与える喜びを味わうこと。イエスというお方は自分を全部与えました。あなたも幸せになりたければ,自分をあげてみては・・・自分の何かを人々に渡していったら,そうしたらあなたが幸せになると,クリスマスのメッセージが伝えております。

    ※司教様チェック済み