ボーイスカウト総会ミサ説教

2005年5月8日
  於:徳島教会

 宗教学者で京都大学の先生をしておられる山折哲夫さんという方がおられますが、その方の書いた本のなかで「さ迷う日本の宗教」という本がございます。これを読みまして、非常に多くのことを考えさせられました。その中で山折先生は、阪神大震災のときの話をしておりまして、あの時に駆けつけた宗教者はだれもいなかったと断言しております。でも実際は多くの宗教家が、神戸のあの震災の時に駆けつけております。でも彼は言うのです「彼らは宗教家として駆けつけたのではなくて、ボランティアだった」或いは「カウンセラーにすぎなかった」と。
 結論的に言えますことは、現在日本の社会の中でいわゆる宗教家、宗教を前面に掲げた宗教家はいないということです、これが残念だということを彼は結論付けて申しております。
 即ち、宗教家の本領たる宗教ということを持ち込まないで、遠まわし遠まわしに、ボランティアとかカウンセリングとかいうことに逃げて廻っている、こんな宗教家がウロウロしている、これが現代の世相であると、彼は主張しています。
 またこんなことも言っております。現在の組織宗教というのは自分達の内部だけがわかる、内部だけで通じる言葉をたくさんもっていて、外部には全然通じない、内部で固まって共同体、共同体と言っているだけであって、でも外にいる者にとって、それは何の意味もない、ということも言っております。そういうことに気付かない鈍い宗教家がウロウロしているなどと言われると、我々にとってかなり厳しい批判となります。考えてみますと「本当だな」と思います。考えてみないといけない課題を私たちに突きつけています。
 即ち、どちらを見ても宗教の本質が何か見えてこないという点です。いろんなことをしていますが、宗教が見え隠れするだけであって、宗教そのものが決して見えない。これでよしとしている。こういう動きが宗教家の中に根強くあります。
 昨日今日とボーイスカウトの総会をしておりますけど、教会の中に入って、やっているということは、一つの意味があると私は思います。ただたんに場所を借りているということでしたら、たいした意味はありません。少なくともスカウトの創立者はそれを望まなかったと言ってもいいと思います。
 ちょうど、このように総会の場でもう一度スカウトの原点とは何か、スカウトと宗教というのはどういうかかわりがあるのか、それをしっかりと見つめなおすいい機会になるのではないでしょうか。
 形だけを追っていたら、決して人は本質に深く入ることは出来ません。本質を理解して宗教的な情操に培われたたくましい生き方を追及する、それがスカウトのいきかたではないかと思うわけです。ただ単に総会をして終わったということではなくて、この総会で原点を見直してみようという動きになれば素晴らしいと思います。

 教育ということに関しまして、先日来「経済開発機構」が主催した「学習到達度調査」と言うのが問題にされております。そこで日本の学力、子どもの学力は落ちたと文化庁を初めとしまして、日本の政界も教育界もウロウロ、右往左往しております。日本は学力が落ちたと言いますが、わたしの思い違いがなければ、この「国際学習到達度調査」というのは、学力の調査ではなくて、学習が生活にどれほどの力になっているかを調査する、その達成度を見ようとする調査です。このアンケートでは、だから学習する力、学力のことではなく学習と実際生活の関係のことを調査しているのです。
 結論的に言いますと、日本は読解力が以前の8位から14位に下がっていて、先進国の中では最低の状況です。数学の応用力は3年前は1位だったのが6位まで落ちています。科学応用力は2位をそのまま保っているといいますが、問題解決の能力は4位から6位に下がっています。これで日本の学力が下がった、学力が下がったと騒いでいるのです。じゃあもう一度学力を取り戻すために、詰め込み授業をもう一度始めましょうと、いうような動きが顕著になっています。
 でも、この調査が言っているのは、生きる力と学問が一緒にくっついているかどうかということなのです。
 即ち、下がったのは学力ではなくて、学力に則って、あるいは習った学問をどのように実生活に応用するか、これが一番の問題なのです。即ち日本の今の子供たちは学校で学んだことが実生活に応用されない、ここなのです。

 ボーイスカウトというのは生きる逞しさというのを追求しております。応用力というのを要求します。頭でっかちの人間ではない、体が一緒にくっついてくる、こういう子どもの育成を考えています。たぶん、今の日本の教育で一番大切なものをボーイスカウトの皆さんが提供していると思います。
 その意味で、スカウトに関わっている大人の皆さんに感謝申し上げるとともに、自信と勇気とをもって、みなさんが今やっているこのことが日本の教育界、ひいては日本の社会を作っていくという、このくらいの自負心と意地を見せてほしいものです。その意味で、わたしはこの場からみなさんにエールを送りたいと思いました。
 現在の潮流、学力一本というものの見方に対して、めげないで自分たちが求めている理想を頑として押し通していくその頑固さ、確かな生き方、それを皆さんのなかに高めていってくだされば非常に嬉しいと思います。
 もう一度繰り返します。単なる総会、或いは単なる集まりで終わらないで、これを機会に、もう一度原点はなんであるか、そして今の日本の社会において自分達が果たさないといけない役割がどんなものであるか見つめなおすいい機会にしてくださればよいと思います。

    ※この文章は溝部司教様の校正と配布許可を受けています